日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】

一級建築士を中心とした、建築系専門資格者によって構成される研究会です。営利企業とは異なるNPOとしての客観的・公正な支点から、適切な建物検査のあり方を研究しています。第三者として厳しい判断やアドバイスを行い、消費者が安心して住宅を購入できる環境作りを目指します。 

小規模な業者なら、標準的技術基準を守らなくても違法とはいえないとする認識・解釈を高裁において是正された事案

【東京高裁平成12年3月15日判決】

【建物プロフィール】

木造軸組二階建。施主は、当初、別の請負人と契約を締結する予定であり、設計図書も完成していたが、相手側が、より安くより上質のものを造ると働きかけて契約を解除させ、自らと契約させたという事例。かなりの杜撰工事であり、基礎、軸組、仕上げ、設備など数多くの瑕疵がある。

【入手経路】

平成3年8月4日 請負契約(2194万7330円)、追加変更(75万2106円)

平成4年7月中 完了、引渡し

【相手方】

請負人

【法的構成】

瑕疵担保

債務不履行

【期間制限】

争点とならず。

【判決の結論】

1判決の法律構成

瑕疵担保

2請求額と認容額

請求額⇒981万9584円
だだし、請求残高金が約1000万円あるところ、補修費用等として約2000万円の請求権があり、対等額で相殺額の金額を請求。

認容額⇒725万6519円
請求残代金を1081万4508円とし、瑕疵修補に代わる損害賠償金権を1627万1027円とし、その他に関連損害を認定した。

【認定された欠陥】

高裁において、基礎についても欠陥を認定された。地裁においては、小屋組、二階床組、内装工事、一階床下、外部工事、設備工事の欠陥が認定されているが、唯一、基礎の欠陥のみが否定されていた。

【コメント】

地裁と高裁とで判断が分かれた事例

地裁(浦和地裁川越支部平成9年10月21日判決)では、施主が請負人に対して請負残代金334万3473円を支払えとされていたのが、高裁において、施主が請負人に対して損害賠償金725万6519円を請求できる、となり、実質的には逆転勝訴となったもの。

判断の分かれ目

地裁においては、一般に木造住宅建築においては、小規模な業者の施工になるものが多く、住宅金融公庫「木造住宅工事共通仕様書」がそのとおり守られているとは言い難い、との認識を示し、かつ、裁判所選任の鑑定人も、基礎については必ずしも補修する必要は認められない、としたため、基礎については欠陥が認定されなかった。

これに対し、高裁では、小規模な一般木造住宅の基礎についても、建築基準法令上の規制を受け、かつ、本件は上記共通仕様書によるとの契約があるとした上、「本件基礎の破断や亀裂等及び支持地盤の不同沈下の形跡の状況は認められない」ないが、本件基礎の現況は「地盤に対する耐久力の低下及びコンクリートの爆裂による沈下等の危険を包蔵している」として瑕疵を認定。

結局、地裁においては、小規模な業者なら法令や標準的技術基準をまもらなくても違法とは言えず、そのような事例も多いいという誤った認識・解釈であったものが高裁において是正されたものであり、かつ、高裁が、裁判所選任の鑑定人の鑑定結果を採用しなかった点も注目に値する。

用語説明

木造住宅工事共通仕様書

住宅金融公庫が融資住宅の質確保のため作成した仕様書。

 

 

<参考文献>

判例タイムズ社

民事法研究会

 

日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】