健全な賃貸住宅産業発展の施策とは(1)

総務省の「住宅土地統計調査」によれば、平成25年度の時点で全国には2209万戸の賃貸住宅ストックがありそのうち約410万戸が空室と、空室率は20%近くまで高まっていた。

新築住宅の着工数が好調だ。賃貸住宅の着工数も2011年の28.6万戸を底に反転し、2012年は31.9万戸、2013年は35.6万戸と2年連続で2桁増を果たし、2013年後半からペースを加速し、2014年に入っても1月・2月は前年比20%以上の勢いを保っている。

株価上昇などアベノミクス効果と相続税強化の予告も駆け込みを後押ししたと見られている。新築着工の好調は東京や復興需要の東北地方だけでなく全国的な傾向だ。新設住宅着工数の増加は景気回復をもたらす。着工数が増えると建設業とその周辺産業が潤い、雇用を確保し、GDPを押し上げる効果があるからだ。しかし、賃貸住宅市場にとって着工数の増加は本当にプラスなのか。そこには手放しでは喜ぶことができない影の面もある。

リーマン・ショックは確かに経済的大惨事ではあった。その一方で、2009年以降の着工数の低迷期は、それ以前のミニバブルによる過熱気味の供給が抑制され、市場の需給バランスが回復に向かう調整局面でもあった。

今回の駆け込み需要はそのようなタイミングで発生した特需である。この5年間で新たに150 万戸以上の賃貸住宅が供給された。同じ期間に取り壊される物件もあるので、着工数がそのままストック数に加算されるわけではないものの、平成25年度の「住宅土地統計調査」では、日本全国の賃貸住宅を均せば、5部屋に1部屋以上は空室ということである。

あまつさえ過剰供給状態だった賃貸住宅市場は、新築着工数の回復でさらに需給バランスを悪化させることになるのだ。賃貸住宅の空室率は築年数と相関することはよく知られている。新築の募集時には満室になっても、2回目の更新を終える築4年後あたりから空室が発生し始め徐々に空室率が高まっていく。

国土交通省の「空き家実態調査(平成21年)」によれば、賃貸住宅の空室率は、築10年を超えるころに10%程度に達し、築25年を超えると30%近くまで一気に跳ね上がる。空室率20%はあくまで市場全体の平均値なので、中には半分が空室になっているような物件も少なくない。そうなると建物の維持管理・修繕に必要なコストの捻出も困難になり、建物の劣化が早まり物件の競争力はますます低下する。

そうして商品力を失った物件は、建替えによって競争力を回復しようとする。滅失された物件の平均築年数は23.7年と、賃貸住宅は驚くほど短命である。約24年の短いサイクルでのスクラップアンドビルドを前提とした賃貸住宅経営は、20年前後で回収できる範囲の投資しか許さない。

立地以外には「新しさ」が最大のアピールポイントである市場だ。当然、借り手のニーズは新築・築浅志向へ誘導される。その行動が集積して、築古物件の空室率はさらに高まり、スクラップアンドビルドされるという悪循環を加速する。

賃貸住宅市場では常識になっていることだが、新築物件には新築プレミアムと言われる割高な家賃が設定される。築10年未満なら空室率は低いので、賃料はまだ強気だ。つまり、新築・築浅物件に絞った住まい選びは、常に割高な家賃を覚悟しなければならないことを意味する。

総務省の家計調査が、新築・築浅偏重の賃貸住宅市場の負の側面をあぶりだす傍証になるかもしれない。同調査によれば、若年勤労単身世帯の消費支出に占める住居費は年々大きくなって、その一方で食費や洋服など他の消費にかける割合がどんどん圧縮されている。

平成元年に男性11.8%・女性17.6%だった住居費は、平成21年にはそれぞれ21.6%・31.1%まで割合を伸ばしている。バブル崩壊以降、寮や社宅など企業の福利厚生が削減されていった背景もあるだろうが、伸びない給与所得の中で家賃が若者の生活を圧迫している実態がうかがい知れる。 (続く)

 

大谷昭二(NP法人日本住宅性能検査協会理事長)